
「ポストコンサル」とも呼ばれるコンサルティングファーム出身者は、どのような転職の可能性があるのでしょうか。ポストコンサルの転職市場や領域別の転職先候補、キャリアパターン、転職実現のコツなどについて、株式会社インディードリクルートパートナーズのコンサルタントが解説します。転職事例も紹介しています。
目次
「ポストコンサル」の転職動向とは?転職で評価されるポイント
「ポストコンサル」の採用ニーズは非常に旺盛です。なぜポストコンサルが転職市場で高く評価されているのか、大きく2つの理由があります。
ビジネス変革力がある
経済環境の目まぐるしい変化を受け、あらゆる業界・あらゆる企業が事業変革を迫られています。例えば製造業では、カーボンニュートラルへの取り組みやESG経営へのシフトが避けては通れなくなっています。
そのようなフェーズの中で、中心に立って変革を成し遂げられる人材として、あらゆるクライアント企業の事業変革に関わってきたポストコンサルに注目する企業は少なくありません。
加えてポストコンサルは、さまざまな業界・企業の経営課題に取り組んできた経験があります。業界特化型のコンサルティングファームであっても、日本国内はもとよりグローバルレベルでプロジェクトの成功事例に触れている可能性があります。ポストコンサルであれば、これらのナレッジをもとに、高いレベルで変革を成し遂げてくれるのではないかと期待する企業も多いようです。
題発見力が高い
ポストコンサルは仕事を通じて、クライアント企業の経営や事業全体を俯瞰し課題を発見する力を身につけていることが多いです。自社の中ではなかなか問題や課題に気づけないこともありますが、課題発見から解決のプロであるポストコンサルが加わることで、現状の課題をいち早く洗い出すことが期待できます。そのうえで、進むべき方向を設定し、課題解決のための最適なアクションプランを組み立てることができる点が、高く評価されています。
ポストコンサルの主要な転職先
コンサルティングファームで経験を積んだ方々はどのような企業へ転職しているのか、主要な選択肢を紹介します。
他のコンサルティングファーム
これまでの経験・スキルを最大限に活かして、「専門領域をさらに極める」「専門領域を変える」「年収を上げる」「役職(タイトル)を上げる」といった目的で、コンサルティングファームからコンサルティングファームへ転職するケースが目立ちます。
企業の事業変革ニーズを受けて、コンサルティングファームへの案件依頼も増加していることから、即戦力としての活躍が期待されるポストコンサルを積極採用するファームも多いようです。
投資ファンド
投資ファンドへの転職では、コンサルタントとして企業のビジネス上の価値を判断してきた経験を、投資先の事業改革や組織改革、投資判断などに活かすことができます。
投資先の事業会社の内部で経営に関与しながら、企業のバリューを高める役割に価値を感じる人に向いていると言えるでしょう。
投資銀行
財務面でのスキルアップを志向する人が、投資銀行を転職先として選ぶ傾向にあります。投資対象企業のソーシング、デューデリジェンス、バリュエーションといった経験を積むことが期待できます。
投資先のIPO、M&Aなどにより高額報酬を得るチャンスがあるのも魅力の一つです。
FAS
FAS(Financial Advisory Service)では、M&Aに際してのデューデリジェンス、バリュエーション、PMI(Post Merger Integration:M&A成立後の統合プロセス)などに携わり、財務面でのスキルアップを図ることが可能でしょう。FASで経験を積み、投資ファンドや投資銀行へ移っていくケースも見られます。
事業会社(大手/ベンチャー)
業種・企業規模問わず、事業会社の経営企画や事業企画のポジションを目指す人も多数います。スキルや経験によっては、COO(最高執行責任者)など経営幹部として迎えられることもあります。
事業会社を希望する方々からは、「コンサルタントとして外部から事業に関わるのではなく、主体的に事業にコミットしたい」「ワーク・ライフ・バランスを整えたい」といった声が多く聞かれます。ただし、給与水準が高いコンサルティングファームから事業会社に移る場合、年収ダウンとなるケースもあります。
外資系の事業企業
外資系企業への転職は、「給与水準が高く、コンサルティングファームから転職しても年収を維持しやすい」「実績を重視するカルチャーが多いので、コンサルティングファーム出身者がなじみやすい」といったメリットがあります。柔軟な働き方ができる制度・風土があり、ワーク・ライフ・バランスを重視したい人にもマッチするでしょう。
「英語力を磨きたい」「グローバルビジネスを経験したい」というキャリアプランを持って転職する人も見られます。
スタートアップ・起業
知人から誘われるなどして、スタートアップ企業に参加したり、起業したりする人も少なくありません。コンサルタントとしての知見を活かしたビジネス作り・組織作りを、草創期から拡大期まで経営陣として携わることで、将来のキャリアの幅の広がりが期待できるでしょう。IPOや事業売却などにより、資産を築ける可能性もあります。
【領域別】「ポストコンサル」のキャリア
ポストコンサルの方がどのようなキャリアを歩んでいるのか、出身の領域別に傾向をお伝えします。
戦略系コンサルティングファーム出身者
戦略系コンサルティングファームで経験を積んだ方々は、次のキャリアとして、「PEファンド」「投資銀行」などを選ぶケースがあります。事業会社に転職するケースも多いですが、高い給与水準を維持するため年功序列の給与体系は避け、メガベンチャーや総合商社などジョブ型採用を取り入れているところが選ばれる傾向にあります。また、総合系コンサルティングファームでタイトルアップを狙う道や、専門領域を手がけるコンサルティングファームに移る道もあります。
総合系コンサルティングファーム出身者
「事業会社」への転職を志向する人が多数のようです。戦略系と同様、給与水準が高めの業界や企業を選び、企画系職種として活躍するケースが多く見られます。
特定の専門領域への興味を深めた人の場合は、専門コンサルファームへ移るケースもあります。
IT系コンサルティングファーム出身者
コンサルタントとしてのキャリアを継続するなら、他のITコンサルティングファーム、戦略・総合コンサルティングファームへの転職を志向する人が多いようです。事業会社のシステム部門へ移る事例も多く、ベンチャーのCIO(最高情報責任者)に就く人も見られます。近年はあらゆる業種の事業会社がDX(デジタルトランスフォーメーション)に本腰を入れている傾向にあるため、事業会社の「DX推進室」などの責任者のポジションで迎えられる事例も増えています。
FAS系コンサルティングファーム出身者
事業会社の経営企画職として転職し、経験を生かしてM&Aポジションや財務会計などファイナンスポジションを志向するケースが多いようです。投資ファンド、投資銀行、総合系コンサルティングファームを目指す人も見られます。
【タイトル(役職)別】「ポストコンサル」のキャリア
タイトル(役職)別に見た、ポストコンサルのキャリアを紹介します。
アナリスト/コンサルタントクラス
このタイトルはまだコンサルタントとしての経験が短いことから、ほかのコンサルティングファームへの転職や、事業会社の企画系ポジションを選ぶケースが多いようです。事業会社の中では、特に設立間もないスタートアップや、成長期のベンチャー企業では、現場で課題を発見しながら事業拡大に貢献してくれると期待されています。なお、戦略系コンサルティングファーム在籍者であれば、PEファンドなどに転身する人もいます。
シニアコンサルタントクラス
シニアコンサルタントは、一般企業でいえばリーダークラスに当てはまります。マネジャーよりも給与水準が低い一方で経験・スキルとポテンシャルの両方を兼ね備えていることが多いため、特に事業会社が評価し採用する傾向にあり、企画系部署のリーダークラスに転職するケースが多いようです。また、サステナビリティやESGなど、自身が興味を持ったテーマを掘り下げることができる専門コンサルティングファームに移る事例もあります。
自社でマネジャーに昇進してから転職活動すれば、さらに転職の選択肢が広がることが期待できるでしょう。一方で、マネジャークラス以上になると、事業会社と給与水準が合わなくなるケースも多くなります。そのため、シニアコンサルタントクラスのうちに転職しようと考える人も多いようです。
マネジャー/シニアマネジャークラス
マネジャー・シニアマネジャークラスになると、「管理職経験者の転職市場」で勝負できるため、事業会社の管理職クラスや、ほかのコンサルティングファームにより高い職位で転職するケースが多く見られます。
ディレクター/パートナークラス
ディレクターやパートナー、プリンシパルなどといったエグゼクティブクラスになると、事業会社の経営者や役員ポジションへの転身事例が増加します。他のコンサルティングファームのエグゼクティブクラスに移るケースも見られます。
「ポストコンサル」が転職を実現するためのコツ
希望通りの転職を実現しているポストコンサルは、どのような転職活動をしているのでしょうか。実現につながるポイントをお伝えします。
専門分野を活かして転職する
他のコンサルティングファームに移るにしても、事業会社に移るにしても、「専門分野」を活かすポジションを狙うことで実現可能性が高まります。会計・金融・ITなどいずれの分野であっても、その分野での先進事例を多数見てきた経験をアピールすれば、年収アップ・タイトルアップの転職を実現しやすいでしょう。
一方、専門分野を活かしながらも、新たな専門性を得ることを目的に転職するのも選択肢の一つです。例えば、先ほども触れたとおり、戦略系コンサルで経験を積んだ後、投資ファンドに移って財務スキルを磨くのも、キャリア構築に有効と言えるでしょう。
キャリアビジョンを明確に持つ
前述のように、ポストコンサルは採用ニーズが旺盛であり、転職チャンスも多いからこそ、自分の軸を持たないと年収やポジションに流されてしまう可能性があります。自分はどのような分野を掘り下げたいのか、どういうテーマを追求したいのか、自身の思いに向き合いキャリアビジョンを明確化しておきましょう。
よく聞かれるのが、給与やポジションに惹かれて事業会社に転職したものの、興味を持てるテーマではなく、再び転職を余儀なくされたというケースです。コンサルティングファームにいると、1つのテーマが合わなくても次は別のテーマ…と、さまざまな分野の経験を積むことも可能ですが、事業会社ではコンサルティングファームほどさまざまな分野に関われる機会は多くはありません。転職に際しては、自分が好きで、興味を持ち続けられるテーマかどうかを、改めて自問自答することが重要です。
転職サービスだけなくSNS、知人など選択肢を広げておく
転職エージェントに相談したり、スカウトサービスに登録してスカウトを受けたりするほか、SNSなどを活用して人脈や情報入手ルートを広げておくことも一案です。
コンサルティング業界では、アルムナイ(卒業生)ネットワークが比較的充実しています。ネットワークを通じ、自身と同じファームの出身者がどのような業界・企業・職種に転職し、どのように活躍しているのか、情報収集するのは一つの方法です。
そうしたネットワーク内では「○○社が△△ポジションで人材を探している」といった情報が流通し、手挙げによってマッチングが行われたり、リファラル採用(社員が友人・知人を自社の人事に紹介する採用手法)につながったりもします。このようなネットワークもぜひ活用してみるといいでしょう。
複数の転職エージェントに相談する
複数の転職エージェントを併用することで、入手できる情報の幅が広がります。
ハイキャリア・エグゼクティブ層に特化したエージェントもあり、例えば、投資ファンドと連携して投資先の経営人材をサーチするエージェント、スタートアップのCXOクラスの人材サーチを強みとするエージェントなどもあります。
企業側は、CXOクラスの採用となると、信頼しているエージェント1社のみに紹介を依頼するケースも多々あります。出会いのチャンスを広げるためにも、複数のエージェントに相談してみて、自身が志向する領域に強いエージェントを見つけてはいかがでしょうか。
ポストコンサルの転職事例
実際にコンサルティングファームでの経験を活かして転職した、ポストコンサルの転職事例を紹介します。
FAS系コンサルから事業会社のM&A担当として転職
FAS系コンサルティングファームで長く活躍してきたシニアマネジャーのAさん(30代後半)。主に企業のM&Aに携り、バリエーション(企業価値評価)に長けていましたが、ディール(※)の結果どういう価値をもたらしたのかなど、バリエーションのその先である中長期的な変化を見ることができない点に物足りなさを感じ、事業会社への転職を志望しました。
そして転職エージェント経由で、事業変革中のエネルギー企業に転職が決定。現在はM&Aなどの投融資を担当する経営企画職として活躍しています。年収は1,600万円から1,200万円にダウンしましたが、関われるM&Aのプロセスが広がることに魅力を感じ、イキイキ働いています。
(※) M&Aの準備から、売り手(もしくは買い手)との交渉やスキームの選定、デューデリジェンスやM&Aの実行とクロージング、そして買収後のPMIまでの一連の流れを指す
ITコンサルから事業会社のDX責任者に転職
IT系コンサルティングファームでDX領域のシニアマネジャーを務めていたBさん(40代前半)。DXのコンサルティングだけでなく、計画段階から導入・実装までを自分の手で手がけたいという思いを持ち、事業会社への転職を希望していました。
転職エージェントに紹介されたのは、大手プラント会社のDX推進担当マネジャーポジションでした。長らく製造業を担当していたため、カーボンニュートラルやエネルギーの可視化などの知見も活かせるとすぐに応募。年収はほぼ変わらず、希望に合った転職を実現しました。
戦略コンサルからベンチャー企業の経営企画に転職
Cさん(30代半ば)は大手通信会社を経て戦略系コンサルティングファームへ転職。2年半ほど経った頃、「外部のコンサルタントとして関われる領域の限界」にフラストレーションを感じ、事業会社への転職を考えて活動を開始しました。
転職エージェントと今後のキャリアの可能性を相談した結果、選んだ転職先は「不動産×IT」のビジネスを展開するベンチャー企業の経営企画。年収は1,400万円から1,200万円へダウンしましたがストックオプションの付与があり、IR・経営戦略・新規事業立ち上げなどに幅広く携われることに魅力を感じたとのこと。将来的にはCOOを目指し、新たな経験を積み上げています。
井澤 真美
新卒で中央省庁に入省。7年間行政に携わった後、2007年に株式会社リクルート(現:株式会社インディードリクルートパートナーズ)に入社。一貫して戦略・企画系職種の転職支援と、当該ポジションの採用支援に従事。現在は主に経営企画・事業企画・投資・M&A・マーケティング・コンサルティング系職種のプロフェッショナルとして、業界横断で当該領域の採用支援と転職支援に従事。特にM&A、投資領域の実績を豊富に持つ。
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